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in 父の日記

父の仕事と裁判員。

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時が経ったので、許される範囲のことを少しだけ書いておこうと思う。

去年の11月、最高裁より裁判員候補に選ばれたという通知が分厚い封筒に入って送られてきた。

裁判員かあ。
まさか自分が候補に選ばれることなどあるものかと、この制度が決まった当初はざわめく周囲とは裏腹に全く関心を持っていなかった。

だが裁判員制度が始まって8年、当時は無関心だった私も、3年前に父を亡くしたことでできることなら参加してみたいという気持ちに変わっていた。

父は長年裁判所に勤めてきた。
父のように黒い法服を着ることはないが、同じように法廷に立ち合う機会があれば、父が生涯をかけて貫いた仕事を何らかの形で感じ取ることができるのではないか、今も本棚にずらっと並ぶ法律関係の書籍を眺めながらそんな風に思ったのだった。


そして、私は裁判に参加する機会を得た。
今回の起訴内容は強盗致傷。
最高無期懲役が科せられる罪ゆえに裁判員裁判が執り行われるという。

裁判所側は、裁判官3名、裁判員6名、補充裁判員2名の計11名。
裁判員が一人でも欠ければその裁判は成立しないことから、補充裁判員も裁判員と同じように最初から最後まで裁判に立ち合うことになる。
ただし、裁判員は法廷で質問することができるが補充裁判員は許されず、また審理後の評議(裁判官と裁判員が話し合って有罪か無罪か、有罪の場合はどのような刑に処するのかを決める)の場において多数決を行う際の投票権は補充裁判員にはない。

テレビで裁判の場面を目にしたことはあるが、当然ながら父は一切の仕事を家に持ち込まなかったため、法廷に入るまでは実際の裁判とはどんなイメージでどういう流れになるのかわからなかった。

裁判員は裁判官と一緒に法壇後ろの扉から入場する。
座る場所も裁判官と同じ法壇上。
私の席は裁判官の真横、中央に近い法廷を見渡すのにちょうどいい場所だった。

初めて法廷に入る時は緊張も高まり、心臓のドキドキ音が耳に届くほどであったが、いざ入場すると冷静に周りを見、話を聞く自然体の自分がフシギだった。

また、法廷前に起訴内容を見せてもらい、裁判長が今回の争点はここだよと具体的に言ってくれていたおかげでスムースに話に入っていけたように思う。

冒頭手続きから判決までの6日間、かなり真面目に頭を使い、私なりに真剣に考え、時に悩んだりもした。
同じ法廷に参加をし、同じ資料を読みながらも11名それぞれ考えは異なる。
その異なった考えを十分な話合いから一つの答えへと導いていく。
自分の考えに迷いが生じても、裁判官の皆さんがその悩みを受け入れ、認めてくれる。
裁判員にならなければ関わることのなかった人たちだが、裁判長が仰っていた通り、私たちは11名で一つのチームになっていた。

疑わしきは裁かない姿勢はなにも裁判所側だけでなく、丁寧に話を引き出し物事を見極めようとする検察側の態度にも好感が持てた。
いい経験になったし、司法に対する信頼も深まったように思う。

また、裁判長のイメージも変わった。
これまでは閻魔大王という印象だったが、今はまるでお釈迦様みたいだと思う。
閻魔大王は検察側か?笑


そして、ああ、これが父の生前であればなあと、勉強になった分余計にそう思った。
父ならばどんな捉え方をしただろう。
父ならばどんな言葉を被告にかけたことだろう。

私は幼い頃から厳格な父が苦手で、だから法曹界はまったくもって興味がなかった。
自分から一番遠い仕事だと思っていた。
しかし、今は思う。
もしも学生時代に、せめて20代でこういう経験ができていたなら、私も法曹界の門を叩きたかったなと。
素直になれなかった自分を悔いた。
その後悔さえもいい経験になったと感謝している。


裁判員裁判の一切が終わった後、裁判員バッチをもらった。
今も父の仏前に供えてある。

裁判員裁判



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